◆手嶋龍一『宰相のインテリジェンス。9・11から3・11へ』を読み解く


※要旨


・アメリカ大統領は決まって朝8時半からインテリジェンス・ブリーフィングを受ける。
政府部内の17を数える情報機関から選り抜かれてくる特上のインテリジェンスが、
国家情報長官を通じて報告される。


・PDBと略称される大統領への諜報報告は、戦争のさなかも、外遊先でも、
休暇中でも、一日も欠かさず行われる。
外交・安全保障上の最高機密が明かされるこの場に日本の総理として、
初めて同席を許されたのは小泉純一郎だった。
「ブッシュの戦争」をいち早く支持してくれたニッポンのリーダーをトップシークレットでもてなした。


・小泉政権の官房副長官として対北朝鮮交渉に携わり、その内幕を知る安倍晋三は、
同盟外交の苛烈さに慄然としたことだろう。
そして眼前に繰り広げられる事象から相手の意図を読み取り、
インテリジェンスを紡ぎだすことの大切さを思い知ったに違いない。


・インテリジェンスは、一国のリーダーが命運を賭けて下す決断の拠り所となる。
相反する雑多なインフォメーションの洪水から事態の本質を窺わせる情報を選りすぐり、
周到な分析を加えて初めてインテリジェンスは決断に資するものとなる。


・「インテリジェンス感覚を磨くための格好の教科書はありませんか」
若い読者からこんな質問を受けることがよくある。
「うーん」と言葉に詰まってしまい、
「ジョン・ル・カレやグリアム・グリーンが書いた情報小説を読んでみてはどうでしょう」
と薦めてみる。
真のインテリジェンスは、深い思索の中で醸成され、しかも情報源の秘匿を至高の責務とする。
このため優れたインテリジェンス・ストーリーは物語の形式をとることが多いからだ。


・新興の軍事大国、中国がめきめきと力をつける東アジアにあって、鍛え抜かれ、
洗練されたインテリジェンス感覚を身につけた若い世代の中から、
この国のありようを変える逸材が必ずや出てくると信じている。
誕生まもない明治国家からソ連国境に身を潜めた石光真清が生まれ、
独ソ戦前夜、欧州の地に独自のユダヤ人情報網を築いた杉原千畝のような逸材が必ず。


・外交を委ねられた者は、政府内では最高指導者から全幅の信頼を取り付け、
国の外では交渉相手の信頼を繋ぎとめなければならない。


・「国家の舵取りを委ねられたリーダーたるもの、インテリジェンス機関に情報を求める際、
我が胸のうちを決して悟られてはならない」
永く諜報界に語り継がれてきた箴言である。
もし国家のリーダーが最終的な決断の中味を悟られてしまえば、インテリジェンス機関は、
政治指導部の決断に迎合した情報を報告してくる。
客観的であるべきインテリジェンスに大きな歪みが生じてしまうのである。


・インテリジェンスの世界に完璧な情報など存在しない。
超大国アメリカがいかに膨大な予算と人員を注ぎ込んでも、
イラク国内に質の高いヒューミントの情報網を築きあげることはできなかった。
ワシントンが中東情報で頼りとするイスラエルの諜報機関モサドすら決定的な情報を掴んでいない。


・日米の安全保障の盟約と同盟は、つまるところ朝鮮半島の有事と台湾海峡の有事という
ふたつの戦争に備えたものだ。
だが60年前、トルーマン政権は、韓国と台湾をアメリカの守備範囲とは見なさないというシグナルを、
ピョンヤン・北京・モスクワに送ってしまった。
真空地帯には周囲から大量の大気が流れ込んで乱気流を生じさせてしまう。
国際舞台でも力の空白は天下の大乱を招く。


・ロンドンの伝統あるクラブで、老戦略家とランチを共にしていた折、
彼がふと漏らした言葉をいまも鮮明に覚えている。
「眼前の懸案を相手国と手を携えて解決する力を内に秘めていない同盟はやがて衰退していく」


・「大国が互いにしのぎを削る冷徹な世界にあっては、力を持つ者こそが正義なのである。
力を持たない者は自分の存在そのものが悪だと決めつけられないよう振る舞うのが精々のところなのだ」
外交に携わる者たちに長く語り継がれてきた箴言である。
身も蓋もないほど率直な物言いなのだが、苛烈な国際政治の核心を見事に衝いている。


※コメント
どんな仕事にも外交にも情報は欠かせない。
その情報の大切さをどのレベルで認識するかが、その人物の仕事の精度を決める。
より情報のセンスを上げていきたい。


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