◆草柳大蔵『実録・満鉄調査部、下巻』を読み解く


※要旨


・満鉄調査部に入って、資料読みの時代が過ぎると、「調査」に出ることを許される。
ところが、なにを調査するかは本人の選択にまかされていた。


・ただ「調査」にあたっては「歩くこと」、これだけは厳しく要求された。
いまの言葉でいう「フィールド・ワーク」である。
自分の身体は一ミリも動かず、資料をツギハギして報告することは認められない。


・野間清が農村調査に出るとき、上司である天海謙三郎は、
「調査すること自体が目的ではないんだよ。
調査を通じて、中国人と接触し、彼らを身体で理解することが大切なのだ」
と教えている。
その天海は東亜同文書院の出身で、中国の土地慣行調査のベテランである。


・満鉄調査部の伝統的特色を挙げれば、「自由主義」と「フィールドワーク」の2つだろう。
ことに「歩く」という伝統は、終戦の解体時まで続いている。
それでは、この「歩く」という伝統の起点はどこかといえば、
やはり東亜同文書院の性格と見なさざるをえない。


・上塚にかぎらず、浜正雄とか佐々木義武(元・科学技術庁長官)とか、
満鉄調査部出身で戦後の経済計画を手がけた人は多いが、
いずれも綿密な資料の「読み」から入る特徴を持っている。


・満鉄調査部の実績を語る際に、「東亜経済調査局」とともに紹介しなければならないのは、
「ハルピン事務所」の存在である。
満鉄のロシア調査は「精密」の一語に尽きている。


・この本の資料を求めてアメリカに滞在中、私はアメリカ人2世からこんなエピソードを聞いた。

国務省の役人がシベリアの森林資源を調べることになり、
大学や国会の図書館で該当する書籍を片っ端から読んだ。
専門的すぎたり、局地的にすぎたりして、どうも満足がゆかない。
最後の方で、彼は満鉄の資料にあたってみた。
一鉄道会社の発行によるものであり、しかも報告者の名前はないので、
最初から軽く見ていたのである。
ところが、彼は満鉄資料を読み終わった途端、声をあげてくやしがった。
「しまった!これを最初に読んでおけば、あとの書籍は読む必要はなかったのに!」


・その資料には、シベリアの森林の位置、木の種類、成長の速度、伐採方法、
搬出のルート、そのうえ森林に棲む動物の種類と行動まで書き込まれていたという。


・大正11年、満鉄は通称「オゾ」と呼ばれ、
世界的に珍重されていたロシア語の図書1万2000冊をハルピンで手に入れた。


・ロシア調査の拠点が「ハルピン事務所」だった。


・満鉄調査部の仕事には、兵要地誌の作成や経済資料の収集のほかに、
中国の旧慣調査が重要な比重を占めている。


・内地からくる代議士、高級官僚、新聞人、財界の代表者、大物の大陸浪人などは、
必ず一度は調査部の上海事務所に顔を出して、満鉄のあつめた精度の高い情報を聞きたがった。


・満鉄調査部の主流はいわゆる「エキスパートネス」であり、
東亜同文書院出身者の実地調査が大河の如き伝統を作っていた。


・大調査部は戦争がはじまってからも「基礎調査」を続行していた。
硝煙の臭いの埒外で、中国や満州の農村を歩く調査員の姿は絶えなかった。


・満鉄調査部の命脈は日本の敗戦以前に尽きていた、
というのが関係者のほぼ一致した見解である。


・満鉄および満鉄調査部をさらに研究される方は、まず、
東京の国会図書館で基礎資料を読まれ、そのうえで専攻分野を選択して、
アメリカの国会図書館で原資料にあたられるのが適当かと考える。


・私見を付け加えさせていただければ、日本の近代史研究をより深めるために、
政府が国会図書館の一隅に「満鉄室」を設けてくれれば、
民間の研究者にとって幸いこれにすぎることはない。


・調査機能の質とその充実度は、国家の危機管理にとって必要不可欠であり、
また目標創出のための知的宝庫となるはずである。


※コメント
草柳氏のこの本は、満鉄調査部に関するゾクゾクするような面白い情報の宝庫だ。
ネットにある満鉄調査部に関する表面的な情報では決してない。
最近、昭和時代に発行された少し古い書籍をいろいろ読んでいるが、
彼らの本というのは、時間をじっくりかけ、
膨大な資料読みと関係者のもとへ出向いたインタビューを徹底している。
まるで満鉄調査部員のようだ。
見習いたい。


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