◆清谷信一『防衛破綻、「ガラパゴス化」する自衛隊装備』を読み解く


※要旨


・自衛隊は貧乏である。
我が国の防衛予算は年間約4兆7000億円。
AWACS(早期警戒管制機)やイージス艦など、最新兵器を多数揃えている自衛隊が、
貧乏なわけはないだろう、という反論もあろう。


・確かに自衛隊は最先端の装備、兵器を多数保有している。
それは間違いない。
だが、その反面、途上国ですら当たり前に持っている装備がない。
今の自衛隊は、セーターやジャージなど業務に必要不可欠な被服すら、
隊員に身銭を切らせて買わせているありさまだ。


・自衛隊の場合、「見栄えのいい兵器」を買うために、セーターなど被服はおろか、
無線機や無線中継器、装甲兵員輸送車、装甲野戦救急車、暗視装置といった「脇役」装備の調達、
整備がなおざりになっている。


・自衛隊が貧乏なのは金がないからではない。
金の使い方が下手なのだ。
軍隊の常識から見れば極めて異常な装備調達を行っている。


・各国の兵器メーカーは生き残りをかけて、極めて厳しい競争を行っている。
だが我が国の防衛産業はそのような世界の兵器マーケットから隔絶している。


・自衛隊の装備、すなわち兵器は、まさに「ガラパゴス化」している。


・本来国防は国家の独立と存続の根幹を支える重要なものだ。
ゆえに他の国では国防に造詣の深い議員が多く、
国防大臣には外交、財務と並んで有力政治家が指名されるのが常である。


・防衛省の装備はわれわれの払った税金で調達されている。
その意味では国民は部外者ではない。
防衛費を最小限に抑えるためには納税者も勉強する必要がある。


・われわれジャーナリストは、世界の軍事専門誌に加え、内外の同業者や専門家、
メーカーの人間との意見交換などから得た情報を加味し、相場観を養う。
そうやって算出した自衛隊の装備調達コストは、
おおむね諸外国の3倍から5倍程度と思って間違いない。


・交戦すれば自衛隊の戦死率は極めて高い。
陸自には、途上国の軍隊ですら保有している装甲付きの野戦救急車が存在しない。
負傷者が出たら、敵弾が飛び交う中、非装甲の野戦救急車で助けにいかなければならないのだ。


・陸自には、医療部隊用の専用ヘリもない。
汎用ヘリに医療装備を積み込むことになっているが、
戦時に際しては弾薬や物資の輸送のほうが優先されるので、
どうしても負傷者の後送は後回しになる。
これは過去の戦争からも明らかである。


・戦場での手当ては、最初の数分が決め手という場合が多い。
さらにいうなれば、大災害が起こった場合も、これらの装備があり、
診断や治療ができる衛生兵がいれば、多くの国民が助かるだろう。


・空中給油機は現在4機あるが、これでは空自の戦闘機隊の規模ではまったく足りない。
少なくとも現在の3、4倍が必要だ。


・商社は単にメーカーとクライアントとをつないでコミッションを取るブローカーではない。
例えば自衛隊は、装備を輸入する場合、日本語の資料を要求するので、
パンフレットはもちろん、詳細な技術資料、マニュアルに至るまで日本語にする必要がある。
この手の翻訳には専門知識が必要で、しかも守秘義務も絡むので料金は一般に高い。
A4用紙数十ページの翻訳でも50〜100万円くらいは優にかかる。


・筆者は、旧・山田洋行が作成したロッキード・マーチン社の
戦術弾道ミサイルATACMSのセールス用資料を入手したことがある。
これは200ページを超えるボリュームで、製品の性能だけでなく、
米軍での運用方法や我が国での運用構想に関する提案まで述べられていた。
おそらく作成には数百万のコストがかかっていただろう。


・商社が抱えるコストとリスク。
商社はある商材に関して代理店契約を結ぶ前に、競合商品をリサーチしたり、
その会社の工場や実際にその商材を使用するデモンストレーションを見に行ったりもする。
その出張コストもバカにならない。


・海外の見本市などにも頻繁に顔を出して、既存のメーカーと関係を維持したり、
新商品や新しい会社をリサーチしたりすることも必要である。


・トラブルシュートも商社の仕事である。
品違いもなく、納期の遅れもないのは日本企業ぐらいで、
外国ではこの手のトラブルは当たり前である。
日本のように従業員が徹夜してまで納期に間に合わせるというようなことはしない。


・トラブルの解決のためには相手のトップ、あるいはそれに近い人物と知り合いになっておく必要がある。
トップと直に話をし、トップダウンで命令してもらうとスムーズに解決することは多いからだ。
できるだけランクの高い人物とコネをつくっておく必要があるが、
これまた直接的、間接的なコストがかかる。


・契約に際しては分厚い契約書が必要となる。
その作成を国際弁護士に頼めば、これまた莫大な料金を払う必要が出てくる。
筆者の個人的な体験だが、A42枚程度の簡単な契約書に問題ないか、
国際弁護士にチェックしてもらうだけで30万円ほどかかったこともある。


・つまり商社の活動にはかなりのコストがかかり、リスクを負っている。
それを前提に、コミッションが高いか安いか論じる必要がある。
商社を通さないのであれば、
防衛省がその人的・経済的なコストとリスクを負担する覚悟が必要である。


・商社は多くの情報を持っているが、当然ながら自分たちの損になる情報は提供しない。
防衛省は情報収集能力が低く、情報の入手を商社に大きく頼っているので、その真偽を確かめられない。
それなのに、自分たちが身銭を切って、人員を使って情報収集しようとはしない。
例えば軍事見本市やコンファレンスなどで、技本や調達関係者を含め、
防衛省・自衛隊からの代表団を見かけることは少ない。


・このような見本市などは各国のメーカーや軍人、技術者が集まる情報交換の場でもある。
そこに来ないのでは、他国の動向や技術のトレンド、価格の相場などのナマの情報に触れられない。
彼らにとっての情報収集とは、海外の専門誌などを購読する程度である。


・一般のビジネスでもよく商社不要論が浮上するが、商社はなくならない。
特に大手の商社は世界中に情報網を張り巡らせており、金融機能も持っている。
今後武器禁輸が進めば、商社は海外企業とのジョイントベンチャーや共同開発などで力を発揮する可能性が高い。


・筆者が防衛省や自衛隊、国内防衛産業に対して厳しいのは我が国の防衛産業の基盤を維持したいからだ。
国防は国家存続の根幹である。


※コメント
清谷氏は、「防衛省から最も嫌われるジャーナリスト」と呼ばれている。
それほど彼の指摘は厳しい。
しかし彼の情報はいろいろな視点で分析されており面白い。
我々国民ももっと防衛関係に関心を持つことが求められる。



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