◆山口昌子『フランス人の不思議な頭の中』を読み解く


山口氏は20年近く産経新聞パリ支局長をつとめたフランス通。
本書の内容はかなり濃く深く、おもしろい。


※要旨


・フランスは多分、何年いても、永遠に「良くわからない国」であり続けるのだろう。
そして、それが魅力なのか、「フランス人なんて大嫌い」と叫びながら、
なぜ「フランスは第二の故郷」にいつの間にかなり、帰国しない外国人が多い。


・国家はフランスの存在理由。
フランス人の枕詞には「エレガント」「粋でシック」「気障」、
あるいは「老獪」などがよく使われるが、「好戦的」という枕詞はあまり使われていないようだ。
ところが、実際は極めて「好戦的」な国民である。


・フランスの国歌「ラ・マルセイエーズ」はその証左だ。
フランス流血革命中に生まれた軍歌とあって、
歌詞の隅々までが好戦性に満ち溢れている。


・フランス人には「米国の独立戦争勝利にはラファイエット将軍の助けが不可欠だった」との意識が強い。
ラファイエットは大貴族(侯爵)の両親と祖父の死去で莫大な遺産を相続したうえ、
17歳で結婚した大富豪(公爵)の娘の持参金もあり大金持ちだった。
19歳のとき、新しい「自由」という理念を引っさげて自前で米国の英国からの独立戦争に参加し、
大いに活躍し、「新大陸の自由」といわれた。


・フランス人の前で悪口を言ってはいけない人物が少なくとも3人いる。
ジャンヌ・ダルクに、ナポレオン・ボナパルト、シャルル・ドゴールの3人だ。
共通項は3人ともフランスを救った「救国の士」ということになる。


・ナポレオンの生い立ちも文字通り波瀾万丈だ。
彼の読書好きは下級将校時代にも維持され、
24時間の謹慎を命じられた時は東ローマ皇帝ユスティニアヌスの『ローマ法大全』を読破、
砲兵連隊時代も読書三昧にふけり、遠征中の野営さえ読書をした。


・ナポレオン自身も書簡、歴史研究書、命令書、口述による演説草稿など、
生涯に膨大な作品を遺している。
このなかから選出して名著『ナポレオン言行録』を発表したオクターヴ・オブリは、
ナポレオンの生涯を要約して、
「25歳にして有名であり、40歳にして全てを所有し、50歳にして、
もはや名のほかに何一つ持たなかった」と記している。
言い得て妙である。


・第二次大戦でドイツ軍がパリに入城し、ペタンがフランスの国家元首に就任して休戦条約を結んだ。
事実上の降伏だ。
ドゴールは降伏を拒否してロンドンに亡命し、
BBCラジオから「レジスタンス」の「呼びかけ」を行った。
フランス人がドゴールを敬愛しているのはドゴールがもし、この「呼びかけ」を行わなかったら、
米国、英国、ソ連(ロシア)、中国とともに国連の常任理事国として国際社会で、
大きな顔ができる現在のフランスは存在しないことを誰よりも知っているからだ。


・実はドゴールはフランス国内でも、軍人をはじめ政治家、経済界、知識階級などの
いわゆる支配階級からは生前、特に戦争直後は嫌われていた。
ドゴール自身も軍人でありながら、実は軍人を嫌っていた。
2つ大戦を通じて凡庸で愚鈍だった軍人に失望していたからだ。


・レジスタンスのフランス国民解放委員会の共同委員長で米国に気に入られていた、
5つ星将軍のアンリ・ジローから、
「貴殿は政治の話ばかりしている」
となじられたとき、
「戦争とは政治です」
とドゴールは即答し、ジローの政治音痴ぶりを軽蔑している。


・フランスに暮らす外国人にとって、最も恐ろしい言葉は「パピエ(紙)」かもしれない。
滞在許可証や労働許可証などの書類を指す。
これがないとフランスでは何をするにもニッチもサッチもいかない。
ナポレオン以来の行政大国、文書大国の伝統があるからだ。


・大英帝国が滅びても英国の情報機関やスパイが生き延びて映画「007」が永遠であるように、
フランスが王政、共和制、帝政など体制が目まぐるしく変わっても、
役人が黙々と任務を果たす行政大国である。


※コメント
さすがベテラン新聞記者といえる筆致だ。
情報のレベルも高い。
膨大な文書情報の精査と現場主義、圧倒的な取材力の融合の結果がこういう素晴らしい本が生まれるのだろう。
見習いたい。


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