◆手嶋龍一『ライオンと蜘蛛の巣:インテリジェンスの賢者たち』を読み解く


※要旨


・生涯の友人を求めるならシングル・スカルの選手に限る。
こんな格言がある。
一年間の練習量は500時間を超える。
しかも、その練習ときたら、オールを手にしたまま意識を喪ってしまうほどつらい。
それでいて一年を通じた試合時間はわずかに2時間足らず。
シングルスカルは、一人で漕ぐボート競技だ。


・こんなスポーツに打つ込む男なら、さぞかし実があるはずだ。
アンディもスタンフォード大学の4年間を艇のうえで過ごしたスカル野郎だった。
卒業後は、四国の国立医科大学で英語教師をしながら学資を貯め、
やがてハーバード大学のロースクールとフレッチャー外交大学院に二重在籍した。
そしてこのふたつの最難関校を同時に卒業し、ワシントンとニューヨークの弁護士資格をとった。
こんな離れ業はどうすれば可能なのだろう。


・この茫洋とした青年は、さして気負った風もなく、
ふたつの大学院の授業と試験を悠々とこなしていった。
わたしがアメリカで所属していた研究所が主催する「安全保障プロジェクト」にもすすんで加わってくれた。
作業が深夜に及び、誰もが疲労の色を濃くするころから、
アンディは悠然とピッチをあげはじめる。
いらいらした表情も見せず、機嫌よく作業を続ける。
それでいて、体力や知力を決して見せびらかしたりはしない。
鍛え抜かれた選良のなんたるかを垣間見た一瞬だった。
こうした若者を多く擁している国をスーパーパワーと呼ぶのだろう。


・その後、アンディはニューヨークの有力弁護士事務所から
提示された10万ドルの年収には目もくれず、財務省入りする。
そしてわずかの報酬で議会との錯綜したやり取りに深夜まで励んだあとに、
ワシントン州最高裁判事のロー・クラークとして判例を調べ上げ、
判決の草稿を練る仕事に転じていった。


・日本にあってはインテリジェンスはどこか哀しげな影を宿している。
第二次世界大戦の敗色が一段と濃くなっていた東京に、
北欧の都ストックホルムから機密電報が打電されてきた。
だが、この極秘のインテリジェンスは暗号を解かれて政府と軍の首脳に届けられる前に、
深い闇に葬られる運命にあった。
「ソ連はドイツの降伏より3ヶ月を準備期間として、対日参戦する」


・このヤルタ密約こそ日本の敗北を決定づけるものだった。
だがそれゆえに、当時の陸軍の首脳陣は負のインテリジェンスを頑なに受け入れようとしなかった。
第一級の情報に接しても、不吉な将来を予見していれば、烈しい拒絶反応を示す。


・第二次世界大戦を通して小野寺信少将は、帝国陸軍のスウェーデン駐在武官だった。
インテリジェンス・ジェネラル、小野寺は、ロンドンに本拠を置くポーランド亡命政府と
緊密な関係を築き上げ、連合国側の極秘情報を入手していた。
その最大級のインテリジェンスこそ、ヤルタ密約の極東条項だった。


・この国では流した汗と費やした時間の総量が発言力の大きさを規定してしまう。
だが、インテリジェンスの世界にあっては、流した汗の量や費やした時間が、
正しい結論を導き出すとは限らない。
それゆえ、かつての東西両陣営の情報機関では、
ともにその経験則から情報を収集する者とこれを分析する者の役割を峻別してきたのである。


・分析の踏み台を直感の脚力で蹴ることのできる者こそ独創的な啓示を得る、
と看破したのはかの開高健だった。
インテリジェンスを読み解く者が、石をひたすら拾い集める者の努力を思って、
情に流されればたちまち直感の脚力は萎えてしまう。
あるときはおのが国の滅亡すら冷たく予言し、あるときは情報の質を極限までに追い求めて、
汗の介在を断じて許さない。


・エルプールズ山脈の裾野に広がるペルシャの都市テヘランの地に、
わが日本の諜報組織の戦果が花開いたのは、1991年。
湾岸戦争の開栓前夜のことであった。
この日、イラク空軍の編隊40数機が突如イラン・イラク国境に姿を見せ、
仇敵イラン領内の基地に着陸を試みた。


・日本大使館の情報アンテナが異変の片鱗を捉えたのはその直後だった。
中東の大国イランは背後でかつて戦火を交えたイラクとひそかな盟約を結んだのか。
それとも、単なる空軍将校の集団亡命なのか。
斉藤邦彦駐イラン大使に率いられた情報戦士たちは、
国家機密の壁に爪を立てるようにしていただきを登りはじめた。
そうしてイランの最高首脳の真意に迫っていた。


・「誰しもそうなのだが、国家も金銭で買うことができるものを信じ、
買えないものは疑ってかかる」

同盟国といえども、決して安易に機密情報を投げ与えてはならない。
コストをかけずに受け取った情報など、提供された相手も真のインテリジェンスとは受け取らないからだ。


・イランの複雑怪奇な行動に伏流する多義性を精緻に分析した斉藤情報は、
湾岸戦争の終結後、十数年が経った今日もなお、その輝きを失っていない。
国家の指導者が欲する情報に安易に迎合しない、
そうしたインテリジェンスには、独自の生命力が宿っている。


※コメント
どんな出来事も、書き手の筆致によって、面白くもなり、その逆もある。
手嶋氏の独特の比喩と表現力は、キザであり、事実を淡々と伝える記者出身とは思えない。
その出来事の重要性と新しい見方を教えてくれる。


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