◆小川三夫『棟梁:技術を伝え、人を育てる』を読み解く



※要旨


・鵤工舎(いかるがこうしゃ)の設立の目的は、
伝統の技を習得し、次に繋いでいける人を育成することでした。


・そのために私が採った方法は、
自分が西岡常一師匠の元で修業したときと同じように、
住み込んで、一緒に飯を食い、一緒に働きに行き、
夜は研ぎ物をするということでした。


・人から人へ技を伝えるというのは容易なことではない。
言葉や技や感覚を伝えることは不可能です。


・技や感覚も大工の考え方も、本人の体が身に付けるものなのです。
体に記憶させる、体で考える。
このことを理解してもらうには、親方や師匠と一緒に暮らし、
一緒に飯を食い、一緒に働くしかない。


・だいたい大工や職人には言葉はいらない。
鉋使いの手加減、体使い、刃の作り方、削ろうとする木の癖、
柔らかさ、どれも体が覚え、判断することや。
これは言葉にはできん。
言葉では教えられないということは、
昔から日本の職人たちは知っていたと思う。


・人を育てるのに急がないんだな。
急いでもしょうがない。
じっくり必要なことを学んでから、技を磨けばいい。


・西岡棟梁は古代の飛鳥の工人たちと時を超えて会話ができる人やった。
そのままの精神を受け継いでおったからな。


・オレの修業時代は、朝起きてメシを食ったら、一緒に法輪寺に行って作業をして、
帰ってきたら飯を食って刃物研ぎや。
ただひたすら刃物を研ぐ。
それだけや。


・弟子に入るときに、一年間はラジオも聞かなくていい、テレビはいらん、
新聞も読まなくていい。
大工の本も何も読む必要ない。
ただひたすら刃物を研げ、というのが棟梁の言葉やった。
その通りにしたな。


・後でわかるんだが、修業はそうやってただただ浸りきることが大事なんだ。
寝ても覚めても、そのことしか考えない時期を作ることや。


・オレは思うんだが、学校や本なんかより、生活が一番の勉強や。
生活の中で、しつけでも、挨拶でも、身に付けるもんや。
生活で身につけることは、相手を思いやること、動きからムダを省くことや。


・ものを教わる、覚えるために一番大事なのは、素直なことや。


・一緒に暮らして、技を教わるというのが徒弟制度だ。
技や感覚なんていうのは、学校や教科書では教えられんな。
本でも覚えられない。
俺が指でなぞって真っ平という感覚は、
定規やセンサーで測ったのとは違うもんだ。


・棟梁がいるから安心して仕事をしてきたからな。
細々口を出したり、怒ったり、そんなことはしねえぞ。
たまに来てじっと仕事を見て、一言でも言えばいい方だ。
それでも仕事場や動き、削ったものを見れば、すべてわかる。
そんなもんや。


・大工仕事は段取りが8割や。
段取りさえうまくいけば、仕事はできたも同然や。


・ガミガミ言ったり、コツを教えても、自信と力は湧いてこない。
自信に裏付けられた技は強いで。
怖いものなしになるし、やればできるって考えられるようになるからな。


・うちは最初から共同生活や。
まず修業中はそのことに浸りきることや。
寝ても覚めても仕事のことしか考えんでいい。
それでは仕事バカになると思うかもしれんが、そうやない。
一つのことに打ち込んでおれば、人間は磨かれる。
中途半端よりずっといいで。


・新人に食事や掃除をさせるのには理由がある。
「掃除をさせたらその人の仕事に向かう姿勢、性格がわかる」
「メシを作らせたらその人の段取りの良さ、思いやりがわかる」
からや。


・大きな建物は一人ではできん。
一緒に仕事をしていくには、優しさと思いやりがないと無理や。
一緒に飯を食い、一緒に暮らし、同じ空気を吸っていれば、
自然に優しくなる。
思いやりがなければ、長いこと一緒には暮らせん。


・現場では音楽もなければ、無駄口もない。
静かなもんや。
ラジオなんか鳴ってねえよ。
それでも、人の動きや道具使いの音のリズム感があって心地いいもんや。
よく現場を任せた大野に、「おまえは叱らんのか?」と聞いたら、
「あんまり何も言わないけれども、
失敗しそうなところは先にわかるから、その時だけ注意します」
って言っておった。
そうなったらいいわな。


・西岡棟梁もよう言っていたな。
「不器用の一心に勝る名人はない」と。
物覚えが早くて、何でもほかの者より早い奴がいるよ。
でもそういう奴は、何をさせても一通りはできるが、
ずば抜けたものがないな。


・俺たち宮大工の造る建物は時間と闘わねばならん。
それに勝って、自然の中で立ち続けるには、
そんな要領のいいことではすまないんだ。
千年の時間でものを考えたら、何も急ぐことはない。
じっくり確実に。


・そういうことは人間を作るのにも出るな。
慌てて、急いで人間を作ろうと思っても無理や。
急いで、即席で作ったら、人間だって無理が出るのと違うか。
今の教育はそんなふうに見えるわ。


・単純がいい。
単純は強いわ。
人も建物も図面も、単純できれいに無駄のないものじゃなくちゃだめだな。


・未熟なうちに任せる。
自分は本当はできるとは思えないんだけど、やってみろというからには、
やれるかもしれないというその一押しだな。
そして任せたら余計なことを聞いたらあかん。
しゃべったらダメだ。
しゃべったら、言わなくてもいいことを言うかもしれないし、
黙って、機を見て「できたか」って聞けばいい。
任せた以上、それでいいんだ。


・他人のせいにして逃げようとするやつには任せられねえ。
逃げる奴はだめだ。
そう思って仕事をしていると、
こいつは逃げるだろうなとすぐわかるよ。
責任というのは失敗したときにわかるんだ。
その時の態度が大事なんだ。



※コメント
現代のスピード化に逆行するような宮大工。
その修業はゆっくり、じっくりである。
人間の成長には時間がかかるようだ。
じっくり生きたい。


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