◆北康利『叛骨の宰相・岸信介』を読み解く
※要旨
・圧倒的な知識と教養、先見性と冷静な判断力、
敵を作ることを恐れない強固な意志と実行力、
人を捉えて離さない人間的魅力、そして強運。
政治家として理想的な資質を兼ね備えた岸信介の数々の業績は、
首相の資質が国家の将来を左右するという歴然たる事実を我々に思い出させてくれる。
・岸が旧制一高に入学するとすくにカルチャーショックが待っていた。
寮の先輩が口にするドイツ語の哲学用語が理解できないのだ。
会話についていくためだけでも万巻の書を読まなければならない。
それは学校の勉強ではなく、まさに「教養」であった。
・旧制一高では、与えられるものではなく、それは自ら学ぼうとするものであった。
エリートとしての誇りと将来国家を支える有為な人材とならなければならないという義務感。
それらに支えられて、彼らは必死に知性と教養を磨いたのだ。
・岸の能力に触れれば、だれもが「特別な人間」だと認めざるを得ない。
彼は農商務省入省以来、無人の野を進むがごとくに一番出世の道を驀進した。
やがて文書課の参事官となる。
文書課は省内各局各課から政策や法案などの稟議書が一手に上がってくる部署であり、
なかでもこの参事官が最初にチェックすることになる。
・案件の重要度によっては、事務官でなく、課長や局長が説明に来る場合がある。
彼のコンピュータ並の頭脳のなかには、
省内の動き、各部署の枢要な人物の能力・識見がすべてインプットされていく。
・昭和天皇が即位される際、御大典が京都で開かれ、相当人数が京都へと向かった。
高等官は高等官同士で集まるものが多いなか、
岸は下働きをしていた若手やノンキャリアたちをポケットマネーで御馳走し、
労をねぎらった。
よほど珍しいことだったのだろう。
その後もこのときの出席者を中心に「京都会」という集まりができ、
東京に戻ってからも毎月、東京・新富町の安い店で会食の場を持った。
・岸は次官になっても、いや大臣になってからも、
終戦になって巣鴨プリズンに収監されるまで、この集まりに顔を出し続けたという。
なかなかできることではない。
「現場の気持ちのわかる上司」が人心を掌握できるのはいまも昔も変わらない。
・岸は、信頼できる部下には徹底して仕事を任せた。
人間信用されないと、その上司に命懸けで尽くすことなどできないものだ。
・元陸軍憲兵大尉、甘粕正彦は関東大震災のときの事件にて投獄された。
出獄後、一時フランスに身を隠していたが、帰国後すぐに満州に渡り、
関東軍内で「甘粕機関」と呼ばれる情報・謀略工作機関を指揮。
いまでいうインテリジェンスを担い、
「満洲の昼は関東軍が支配し、夜は甘粕が支配する」とささやかれるようになる。
・全員が満足する人事などない。
自らの信じるまま思い切って断行するほかないのだ。
戦後、彼が公職追放を解かれ、政治の表舞台に戻ってきたときも、
「人事は電光石火にやるべきだ」
そうしばしば口にしたのは、さまざまな経験の積み重ねによるものだった。
・巣鴨プリズンに収監されているとき、岸は読書家だけに差し入れも多かった。
読むのは日本の書物に限らない。
千ページに及ぶチャールズ・ディケンズの『デイビット・カッパーフィールド』を
原書のまま一気に読破し、ビクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』の翻訳までしている。
やはり、この男は只者ではない。
・日頃、岸は政治家のあり方について次のように語っている。
「政治家の自邸はできるだけ東京の中心地に近いのがよい。
政治家は常に来客を絶やしてはならぬ。
ほんとに用事があればどんな遠いところでも訪問してくれるが、
政治家の客人にはそうたいした用事などないものだ。
この用事のない客人が来ないような政治家は駄目だし、
そんな連中がまた来やすい処に自宅をもつことが、
つまらぬようだが大事なことだ」
この言葉の通り、岸邸にはその後、来客が後を絶たなかった。
・政治家は思いつきで国家の方向付けを行ってはならない。
いきあたりばったりな政策では無駄な時間が過ぎていくだけだ。
先を読んで布石を打つ。
岸のそれは、彼の政権取りがまさにそうであったように、
最短ルートでの政権実現を絶えず念頭に置いたものであった。
・首相の仕事は外交だけではない。
自然災害から国民を守るのも大切な仕事の一つだ。
岸の決断力は防災のような危機管理でこそ発揮される。
・国民の安全を確保し、生活を安定させることこそが政治である。
彼はその基本に忠実であった。
安全保障と社会保障の両方を目指したところに、岸の政治家としての偉大さがある。
経済運営もまた見事だった。
・岸は自分自身を一言で表すとしたら「叛骨」という言葉だと自負していた。
※コメント
岸の人生は波乱万丈である。
また時代も激動であった。
彼と彼らの時代の人々を見ると、我々現代人はもっとできる。
そう感じさせてくれる。
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